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ベーチェット病の治療

監修:横浜市立大学 名誉教授/客員教授
横浜リウマチ・内科クリニック 院長
石ヶ坪良明先生

治療目標

ベーチェット病にはさまざまな症状があり、現れている症状やその程度などにより治療目標が異なります。外国のベーチェット病診療ガイドラインでは、以下のように治療目標があげられています。

ベーチェット病の治療目標1,2)

  • 炎症の悪化や再発をすみやかに抑えることで眼障害や内臓の障害(および後遺症)を防ぐ
  • QOL低下をもたらす皮膚粘膜症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍)や関節炎の悪化を防ぐ

眼障害や内臓の障害(および後遺症):炎症が治まっても元の健康な状態に戻すことができない臓器の障害を指す。ベーチェット病では主に眼障害や消化器病変、血管病変、中枢神経病変などによる内臓の障害(および後遺症)が生じることがある

炎症の悪化や再発をすみやかに抑えることで眼障害や内臓の障害(および後遺症)を防ぐ

眼症状や特殊型の消化器病変、血管病変、中枢神経病変は、炎症によるダメージが積み重なり、眼障害やさまざまな内臓の障害(および後遺症)を残すことがあります。とくに特殊型ベーチェット病では、内臓の障害(および後遺症)が生命をおびやかすこともあります。
このような眼障害や内臓の障害(および後遺症)を防ぐために、炎症をすみやかに抑えることが治療目標になります。

QOL低下をもたらす皮膚粘膜症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍)や関節炎の悪化を防ぐ

口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍や皮膚症状、外陰部潰瘍はくり返し現れても多くの場合、内臓の障害(および後遺症)を残しません。しかし、これらの症状は痛みや不快感などにより、患者さんの生活の質(QOL)が大きく損なわれます。
患者さんの多くはベーチェット病によって身体にさまざまな痛みがあり、痛みが健康関連QOLの低下を引きおこすことが示されています3)。中でも、痛み、身体機能低下、倦怠感などをもたらす関節炎はQOLの低下に強く影響していることも示されています3,4)。さらに、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍があることで、食べたり飲んだりすることに支障をきたしQOLが低下することも報告されています5)
このように多くの場合、内臓の障害(および後遺症)は残さないものの、QOL低下をもたらす皮膚粘膜症状、関節炎の悪化を抑えることも、ベーチェット病の治療目標になります。

※健康関連QOL:病気や健康状態が生活の質(Quality of Life)に及ぼす影響を測るための指標。身体的な側面(身体機能、痛み、日常活動など)、役割・社会的な側面、精神的な側面、活力・倦怠感などについての質問票を用いて健康に関係するQOLの状態を調べて数値化する。SF-36、EQ-5Dなどが知られている。

1)Hatemi G et al.:Ann Rheum Dis. 77:808-818, 2018

2)Hatemi G et al.:Ann Rheum Dis. 67:1656-1662, 2008

3)Canpolat Ö et al.: Asian Nurs Res(Korean Soc Nurs Sci). 5:229-235, 2011

4)Bernabe E et al.: Rheumatology(Oxford). 49:2165-2171, 2010

5)Naito M et al.:Genet Res Int. 2014:1-8, 2014

治療の考え方

ベーチェット病にはさまざまな症状があり、その現れかたは患者さんによって異なります。また、同じ患者さんでも症状の種類や症状の重さは時期によって変化します。そのため、ベーチェット病の治療では、個々の患者さんに現れている症状の種類や症状の重さ、症状の進行の程度、患者さんの希望などに応じて治療方針を立てる必要があります1)

1)Hatemi G et al.:Ann Rheum Dis. 77:808-818, 2018

ベーチェット病の症状に応じた治療

皮膚粘膜症状(口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)、外陰部潰瘍、皮膚症状)

口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)、外陰部潰瘍、皮膚症状に対しては、症状が軽い場合はステロイド外用薬による治療が行われます。また、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍と外陰部潰瘍には、粘膜保護薬を使用することもあります。症状がない時期には、これらの治療はお休みすることができます。
ステロイド外用薬で十分な効果がみられない場合には、痛風・家族性地中海熱治療薬が使用されます。このお薬は、本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬ですが、ベーチェット病のさまざまな症状に効果があることがわかり、治療に使用されています。皮膚粘膜症状がくり返し現れ続ける患者さんでは、いまある症状を改善するだけでなく、症状がくり返し現れることを抑えるためにも使用されます。症状がおさまっている時期も服用を続けることで、ベーチェット病のさまざまな症状が再び現れることを抑える効果が期待できます。最近では皮膚粘膜症状のうち、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍に対して、PDE4阻害剤という飲み薬も使用できるようになりました。
また、口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍や皮膚症状の結節性紅斑、毛嚢炎(毛包炎)様皮疹では抗菌薬による治療で効果が得られることもあります。
以上の治療で効果がみられない場合には、ステロイド内服薬を使用することもあります。眼症状や特殊型など他の症状を伴う場合は、その治療として免疫抑制薬やTNF-α阻害薬などの強力な治療を行うこともありますが、これらの治療は通常、皮膚粘膜症状のみの患者さんには使用されません。

皮膚粘膜症状に使用される主な治療薬

治療薬

説明

ステロイド外用薬

  • 皮膚や粘膜の炎症を抑えるお薬です。
  • 症状にあわせて、飲み薬や注射剤と組み合わせて使用します。

粘膜保護薬

  • 粘膜の血流を増やし、粘液を分泌させて、粘膜を保護するお薬です。

痛風・家族性地中海熱治療薬

  • 本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬です。
  • 白血球の働きを抑え、炎症を抑えるため、ベーチェット病の治療にも使われます。

PDE4阻害剤

  • 免疫バランスの乱れを整え、炎症を抑えて口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍(口内炎)を改善するお薬です。

抗菌薬

  • 細菌の増殖を抑えるお薬です。

ステロイド内服薬

  • 炎症を抑えるお薬です。

TNF-α阻害薬

  • 免疫機能にかかわり、炎症を引きおこす特定の物質(TNF-α)の働きを抑えるお薬です。
眼症状

ベーチェット病の眼炎症発作に対しては、ステロイド点眼薬と散瞳点眼薬が使用されます。前部の炎症が強い場合には、ステロイドは結膜の下に注射することもあります。
眼球の後部に眼炎症発作がおきた場合(網脈絡膜炎)は、ステロイド後部テノン嚢下注射、ステロイド内服薬を使用します。また、前部の炎症も伴っていることが多いためステロイド点眼薬、散瞳点眼薬もほとんどの患者さんで使用します。
眼症状の現れる患者さんでは、眼炎症発作がくり返しおこるのを抑える治療も重要です。発作抑制のためには、まず痛風・家族性地中海熱治療薬が使用され、効果が不十分な場合には免疫抑制薬も検討されます。TNF-α阻害薬は通常、免疫抑制薬でも発作が十分に抑えられない網脈絡膜炎に使用されますが、視力低下の可能性が高い患者さんでは、早くからTNF-α阻害薬の使用を開始することもあります。発作が十分に抑えられず、TNF-α阻害薬など他の治療が使用できない患者さんでは、ステロイド内服薬を使用することもあります。

眼症状に使用される主な治療薬

治療薬

説明

ステロイド点眼薬

  • 眼球の前部の炎症を抑えるお薬です。
  • 1日数回、症状のある眼に点眼します。

散瞳点眼薬

  • 虹彩をゆるめて瞳孔を開いた状態にするお薬です。
  • 1日数回、症状のある眼に点眼します。点眼後はしばらく瞳孔が広がりまぶしく感じ、近くが見えにくくなります。
  • 炎症によって虹彩が周りの組織とくっついて(癒着)しまうのを防ぐ効果が期待できます。

ステロイド結膜下注射

  • 眼球の前部の炎症を抑える治療です。
  • 虹彩毛様体炎が重症の場合にステロイド薬を結膜のすぐ下に注射します。散瞳薬を一緒に注射することもあります。

ステロイド後部テノン嚢下注射

  • 眼球の後部の炎症を抑える治療です。
  • 麻酔後、結膜を通して眼球の周囲(テノン嚢の内側)にステロイド薬を注射します。

ステロイド内服薬

  • 炎症を抑えるお薬です。
  • 炎症を抑える効果は強力ですが、長期使用による副作用を防ぐため、症状が改善したら量を少しずつ減らしていきます。

痛風・家族性地中海熱治療薬

  • 本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬です。
  • 白血球の働きを抑え、炎症を抑えるため、ベーチェット病の治療にも使われます。

免疫抑制薬

  • 免疫に関係するさまざまな細胞の働きを抑えて、免疫反応と炎症を抑えるお薬です。

TNF-α阻害薬

  • 免疫機能にかかわり、炎症を引きおこす特定の物質(TNF-α)の働きを抑えるお薬です。
関節炎、精巣上体炎(副睾丸炎)

関節炎に対しては、痛みや炎症を抑える非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とステロイド内服薬が使用されます。関節炎の症状が軽い場合は、NSAIDsのみで症状が抑まるのを待つこともあります。NSAIDsとステロイド内服薬は関節炎が抑まっている時期は中止し、関節炎が現れた時に再開します。
関節炎の症状がくり返し現れる患者さんには、症状が再び現れることを抑えるために痛風・家族性地中海熱治療薬が使用されます。このお薬による再発予防の効果が十分でない場合は、免疫抑制薬を使用することもあります。
精巣上体炎(副睾丸炎)に対しても同様に、痛みや炎症を抑えるNSAIDsとステロイド内服薬、症状の改善と再発予防のために痛風・家族性地中海熱治療薬が使用されます。

関節炎や精巣上体炎(副睾丸炎)に使用される主な治療薬

治療薬

説明

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

  • 痛みと炎症を抑えるお薬です。
  • 胃腸障害の副作用を防ぐために、粘膜保護薬と一緒に使用することがあります。

ステロイド内服薬

  • 炎症を抑えるお薬です。
  • 炎症を抑える効果は強力ですが、長期使用による副作用を防ぐため、症状が改善したら量を少しずつ減らしていきます。

痛風・家族性地中海熱治療薬

  • 本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬です。
  • 白血球の働きを抑え、炎症を抑えるため、ベーチェット病の治療にも使われます。

特殊型ベーチェット病の治療

特殊型ベーチェット病では、重症度の高い症状の治療を中心に治療方針が検討されます。
特殊型の症状によって治療は異なりますが、内臓の障害(および後遺症)を最小限に抑えることを目指し、ステロイド薬や免疫抑制薬などの全身投与によって、いま現れている症状をすみやかに抑える治療(寛解導入療法)を行います。症状が軽快したら、再発を抑える維持療法を続けていきます。
寛解導入療法では、免疫反応や炎症を強力に抑える治療薬を用いるため、入院などによって、感染症などの副作用を慎重に管理しながら治療します。

血管(型)ベーチェット病

寛解導入には、ステロイド内服薬や免疫抑制薬が使用されます。動脈瘤、肺病変、一部の重症な深部静脈血栓症などの重症例の寛解導入には高用量ステロイド療法と免疫抑制薬の静脈注射療法を併用することもあります。特に症状が重い場合には、ステロイドパルス療法も検討されます。症状が軽快したらステロイドなどの減量を行い、維持療法として免疫抑制薬の飲み薬を継続します。
深部静脈血栓症の患者さんには血栓ができにくくする抗凝固薬を使用することもあります。

腸管(型)ベーチェット病

寛解導入には、軽症では潰瘍性大腸炎の治療に用いられる5-ASA製剤などが用いられ、中等症以上ではステロイド内服薬、TNF-α阻害薬が使用されます。これらの治療で寛解が得られない場合は免疫抑制薬を使用することもあります。維持療法としては、5-ASA製剤やTNF-α阻害薬を継続投与します。腸管が狭くなる、穴があく危険があるなど症状が重い場合は、食事摂取を控えて静脈から栄養成分を点滴する(完全静脈栄養療法)または、消化しやすい栄養剤を経口摂取する(経腸栄養療法)こともあります。重症の病変が治療薬で改善が得られない場合は、腸管の一部を切除する手術を行うこともあります。

神経(型)ベーチェット病

神経(型)ベーチェット病は「急性型」か「慢性進行型」かによって治療が異なります。
急性型では、中等量から高用量のステロイド療法を行い、効果が不十分な場合にはTNF-α阻害薬やステロイドパルス療法を検討します。症状が軽快したらステロイドを減量し、維持療法として痛風・家族性地中海熱治療薬を継続します。
慢性進行型では、ステロイド薬や多くの免疫抑制薬で効果が得られないため、メトトレキサート(MTX)やTNF-α阻害薬で炎症の抑制を目指します。髄液IL-6の値が低値となり、精神や神経の障害が進行しないことを治療目標に治療薬を継続します。

特殊型ベーチェット病に使用される主な治療薬

治療薬

説明

ステロイド内服薬

  • 全身の免疫反応や炎症を抑えるお薬です。
  • 炎症を抑える効果は強力ですが、長期使用による副作用を防ぐため、症状が改善したら量を少しずつ減らしていきます。

高用量ステロイド療法

  • 全身の免疫反応や炎症を強力に抑える治療です。
  • 高用量のステロイドを1~2週間、静脈注射(点滴)または飲み薬で投与し、症状の軽快がみられたら量を少しずつ減らしていきます。さらに大量のステロイドを数日投与する治療法は、ステロイドパルス療法とよばれます。

免疫抑制薬

  • 免疫に関係するさまざまな細胞の働きを抑えて、免疫反応と炎症を抑えるお薬です。

免疫抑制薬の静注療法

  • 免疫に関係するさまざまな細胞の働きを抑えて、免疫反応と炎症を強力に抑える治療です。
  • 高用量の免疫抑制薬を点滴で2~4週ごとに断続的に投与します。