中枢神経病変

症状

多くの場合、小脳や脳幹などの中枢神経系に炎症がおこることで、さまざまな症状が現れます。ベーチェット病の発症から何年も経ってから現れることの多い症状です。

ベーチェット病患者さんの約1割に1)、特に男性に多くみられます。

中枢神経病変のある患者さんは、症状やその進行の仕方から「急性型」または「慢性進行型」の神経(型)ベーチェット病に分類されます。

急性型では、脳を包む髄膜や脳幹という部位に炎症がおきて発熱、頭痛、意識障害、まひなどの神経症状が現れますが、ステロイドによる治療がよく効きます。

慢性進行型は、治療により炎症を改善することが難しく、症状が徐々に進行していくこともあります。

認知症のような精神症状や、認知機能、運動機能の障害がみられ、寝たきりになるおそれもあります。

中枢神経病変
  • 神経症状が目立って現れる場合は神経(型)ベーチェット病に分類されます。
  • 急性と慢性に分けられます。急性の場合は脳を包む髄膜の炎症、脳幹の炎症がおこります。慢性の場合は片まひ、認知症のような症状が現れます。

1)Kirino Y et al.:Arthritis Res Ther. 18:217, 2016

治療

神経(型)ベーチェット病では、重症度の高い症状の治療を中心に治療方針が検討されます。

内臓の障害(および後遺症)を最小限に抑えることを目指し、いま現れている症状をすみやかに抑える治療(寛解導入療法)を行います。症状が軽快したら、再発を抑える維持療法を続けていきます。

神経(型)ベーチェット病は、「急性型」か「慢性進行型」かによって治療が異なります。

急性型では、中等量から高用量のステロイド療法を行い、効果が不十分な場合にはTNF-α阻害薬やステロイドパルス療法を検討します。症状が軽快したらステロイドを減量し、維持療法として痛風・家族性地中海熱治療薬を継続します。

慢性進行型では、一部の免疫抑制薬やTNF-α阻害薬で炎症の抑制を目指します。髄液IL-6の値が低値となり、精神や神経の障害が進行しないことを治療目標に治療薬を継続します。

中枢神経病変に使用される主な治療薬

治療薬 説明
ステロイド内服薬

全身の免疫反応や炎症を抑えるお薬です。

炎症を抑える効果は強力ですが、長期使用による副作用を防ぐため、症状が改善したら量を少しずつ減らしていきます。

高用量ステロイド療法

全身の免疫反応や炎症を強力に抑える治療です。

高用量のステロイドを1~2週間、静脈注射(点滴)または飲み薬で投与し、症状の軽快がみられたら量を少しずつ減らしていきます。さらに大量のステロイドを数日投与する治療法は、ステロイドパルス療法とよばれます。

TNF-α阻害薬 免疫機能にかかわり、炎症を引きおこす特定の物質(TNF-α)の働きを抑えるお薬です。
痛風・家族性地中海熱治療薬

本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬です。

白血球の働きを抑え、炎症を抑えるため、ベーチェット病の治療にも使われます。

免疫抑制薬 免疫に関係するさまざまな細胞の働きを抑えて、免疫反応と炎症を抑えるお薬です。

StageⅠの場合でも条件を満たすと医療費助成を受けられる場合があります。

HLA-B51やHLA-A26が陽性でも、それだけでベーチェット病と診断することはできません。なお、遺伝子検査には保険は適用されません。

最近では針反応で陽性を示す患者さんが少なくなってきており、あまり行われなくなってきています。

炎症が治まっても元の健康な状態に戻すことができない臓器の障害を指す。
ベーチェット病では主に眼障害や消化器病変、血管病変、中枢神経病変などによる内臓の障害(および後遺症)が生じることがある

病気や健康状態が生活の質(Quality of Life)に及ぼす影響を測るための指標。身体的な側面(身体機能、痛み、日常活動など)、役割・社会的な側面、精神的な側面、活力・倦怠感などについての質問票を用いて健康に関係するQOLの状態を調べて数値化する。
SF-36、EQ-5Dなどが知られている。

皮膚や粘膜の組織の一部が壊死してなくなっている状態

虹彩、毛様体、脈絡膜は眼球を包むぶどうの実のような色の組織であり、まとめて”ぶどう膜”とよばれる。ぶどう膜とそれに隣接する部位におこる炎症を “ぶどう膜炎”という

小腸のうち、胃や十二指腸に近い側の半分弱を空腸、大腸に近い側の半分強を回腸という。また、大腸の始まりの部分を盲腸といい、そのつなぎ目の部分を回盲部という。

本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬ですが、ベーチェット病の治療にも使用されています。