Mさんの体験談(前編)

Mさん:50歳代(診断から約8年)

Mさん:50歳代
(診断から約8年)

口内炎治療で取り戻した
自分らしい暮らし
~口内炎と向き合い、新たな治療にチャレンジ~

無数の針で刺されているような痛みを伴う口内炎

口内炎があらわれ始めたのは、ベーチェット病の診断を受ける1年ほど前だったと思います。水を飲むだけでも激痛が走るようなひどい口内炎ができ、食事も十分に摂れない状態が1ヵ月以上続きました。当初は花粉が飛んでいる時期だったこともあり、花粉症の症状が悪化しているのかなと思っていました。口内炎は、時間をかけて自然と良くなっていきましたが、数ヵ月ごとに何回もくり返しあらわれるようになったのです。

そこで耳鼻科に通うようになり、口内洗浄剤やビタミン剤を処方されたのですが、残念ながら口内炎は少しも改善しませんでした。一度口内炎があらわれると、数えきれないほどたくさんできて口の中全体に広がり、赤くただれたようになってしまうのですが、その痛みは無数の針で刺されているようでした。普通の口内炎とは比べものにならない痛みです。舌が動くと痛いため喋ることもつらいですし、強い痛みで食欲もなくなり、体重は落ちていきました。口内炎は、再発をくり返すごとに悪化する一方でしたが、症状の改善がみられたタイミングでは友人との食事や会話を楽しむようにしており、それが一番の気分転換でしたね。

「何かがおかしい・・・」と疑う気持ちが、
ベーチェット病早期診断への近道

口内炎の再発が2、3回みられた頃から、皮膚症状や外陰部潰瘍もみられるようになりました。「何かがおかしい…」と感じたため、症状を入力して必死にインターネットで検索しました。すると、“ベーチェット病”という言葉がでてきたのです。人によっては失明する可能性のある病気だとわかり、すぐに近くの総合病院を受診しました。そこから、今も通院している大学病院に紹介していただき、すぐにベーチェット病の診断に至りました。

診断されたときは、「完治しない病気であり、ずっとつき合っていかなくてはならない」ということに大きなショックを受けました。しかし、1年近く口内炎に悩まされ続け、精神的にも追い詰められていましたので、病名がわかって治療を開始できることに、ほっとしている自分もいましたね。

治療はステロイド内服薬を開始し、口内炎の数や痛みが最もひどかった時期の6割程度に改善しました。しかし、口内炎の再発は完全になくなったわけではなく、2~3ヵ月に1回の頻度でみられていました。そのため、主治医がステロイド内服薬の減量は困難であると判断し、ステロイド内服薬以外の新たな治療選択肢を提案してくださいました。

「やるだけやってみよう!」の精神でチャレンジした新たな口内炎治療

近年、口内炎治療に対する新たな治療選択肢が内服薬で登場したそうです。口内炎は、私にとって一番つらい症状だったのですが、これまでとは違う薬ということから副作用がこわく、すぐに治療に踏み切ることはできませんでした。それというのも、ベーチェット病診断後に最初に処方された薬でひどい下痢の副作用が起こり、中止に至った経験があったからです。主治医からは、新たな口内炎治療薬を服用すると少しお腹がゆるくなる可能性があると説明を受けていたため、「通勤電車の中でお腹が痛くなったらどうしよう、また以前のような症状が出たら日常生活が厳しくなるかもしれない」と不安になり、躊躇してしまいました。

しかし、「ステロイド内服薬を減量すると再発してしまう状況を打破したい」という気持ちはありましたし、主治医も「Mさんがやってみたい、という気持ちになるまで待ちますよ」といってくれていましたので、インターネットで新たな口内炎治療薬のことを調べたり、他の患者さんの体験談を読んだりして、情報収集に努めました。そうしているうちに、「やるだけやってみよう!ダメだったらストップすればいい」と踏ん切りがつき、新たな口内炎治療薬による口内炎治療を開始しました。

そうしたら、口内炎の症状がおさまっている状態に至ることができたのです。現在、新たな口内炎治療薬を始めて約1年になりますが、今のところ口内炎の症状がおさまっている状態が続いています。これまで気をつかってきた食事に関しても、今ではいつでも好きなものを楽しめるようになりました。

また、新たな口内炎治療薬の開始時は副作用が起こりにくいように薬の用量を徐々に増やしていきましたので、少しお腹がゆるくなったものの1週間程度でその症状はなくなり、不安に思っていたことは起こりませんでした。

新たな薬ということで最初は身構えてしまいましたが、勇気を出してチャレンジしてみて本当によかったと思います。

症状悪化のボーダーラインを把握し、口内炎と上手につき合っていく

現在は、ステロイド内服薬の減量を進めているのですが、口内炎に悩まされていた頃は、再発が起こるとステロイド内服薬を増量して症状を抑える、ということをくり返していました。そのため、「症状がどの程度のときに対処しておくと、急激な悪化を避けられるのか」の把握に努めました。

具体的には、日頃から携帯電話のメモ機能などを活用して自分の症状や状況を記録していき、「水がしみるようになってきたら薬の増量が必要」といった症状悪化のボーダーラインを、試行錯誤しながら見極めていったのです。症状悪化のボーダーラインがわかると、タイミングを逃さず病院を受診することができますので、大事に至る前に適切な対応をとっていただくことができました。

私は、そのようにして症状をコントロールし、口内炎による影響を最小限にして日常生活を送ってきました。

診察時以外の症状やつらさを率直に主治医に伝えることが、
より良い治療への第一歩

納得して治療を受けるためには、医師とのコミュニケーションも大切です。私は、「診察と診察の間にどのような症状があったのか」だけでなく、「つらい」といった主観的な感情もすべて主治医にお話しするようにしています。そうすることで、「では、薬を増やしましょう」などと対応してくださることも多くありました。症状に対するつらさや治療への不安などは抱え込まず、主治医に率直に伝えてコミュニケーションをとることが、より良い治療につながるのではないかと思います。

私の場合、ベーチェット病と診断がつくまでは、口内炎の症状が悪化の一途をたどっていても、他のベーチェット病症状があらわれるまで我慢し続けて、つらい時期を過ごしてきました。しかし、現在は治療薬に恵まれたおかげで口内炎から解放され、日常生活を支障なく送ることができています。そのため、もしどんどん悪化していく口内炎に悩まれている方がいれば、我慢せず、早めに大きな病院を受診してほしいと強く感じています。そうすることで、早期に適切な治療を開始できる可能性もあると思います。今は、ベーチェット病の口内炎に対する新たな治療薬もありますので、口内炎の治療をあきらめずに、ぜひ一歩を踏み出してみてください。

より良いベーチェット病治療のためのヒント

  • チャレンジ精神をもって、口内炎治療をあきらめない
  • 症状悪化のボーダーラインを把握し、先手を打って対処する
  • 症状だけでなく、自分の素直な気持ちもすべて主治医に伝える

口内炎から解放されたMさんの今は、後編でご紹介します。

※ 掲載内容は患者さん個人の体験談であり、すべてのベーチェット病患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。ご自身の症状で気になることや治療に関することは、主治医またはお近くの医療機関にご相談ください。