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ベーチェット病について

監修:横浜市立大学 名誉教授/客員教授
横浜リウマチ・内科クリニック 院長
石ヶ坪良明先生

ベーチェット病とは

ベーチェット病は、身体の中の免疫バランスの異常によっておこる全身性の炎症性疾患です。トルコのイスタンブール大学のベーチェット先生が報告したことから、この名がつけられました。ベーチェット病の歴史は古く、紀元前5世紀には古代ギリシャの書物にベーチェット病らしき病気の記載があったなど、古くから知られていたようです。

ベーチェット病の特徴

ベーチェット病は、症状が現れたりおさまったりすることを、長い期間にわたり何度もくり返すことが特徴です。ベーチェット病患者さんに最も多く現れる症状は口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍ですが、そのほかにも外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状など、さまざまな症状がさまざまな組み合わせで現れます。患者さんによって現れる症状の組み合わせが大きく異なることも、ベーチェット病の特徴の一つです。
なお、ベーチェット病は、一定の基準を満たす患者さんでは、国から医療費助成が受けられる指定難病として指定されています。

アフタ性潰瘍:口の中などの粘膜に生じる白く小さい円形や楕円形の膜で覆われた潰瘍
潰瘍:皮膚や粘膜の組織の一部が壊死してなくなっている状態

症状について詳しくは

ベーチェット病の地域分布

ベーチェット病は、世界的には日本をはじめ、韓国、中国、中近東、地中海沿岸地域といった北緯30度から45度付近のシルクロード沿いの地域で多くみられます。このためシルクロード病とよばれることもあります。

Cho SB et al.:Yonsei Med J. 53:35-42, 2012より改変

ベーチェット病の患者数

日本では、人口10万人当たり13.5人がベーチェット病の患者さんであるという報告があります1)。ベーチェット病で指定難病の特定医療費受給者証を保有している患者さんの数は約1万5千人です2)。ベーチェット病は、以前は男性に多いといわれていましたが、最近では男女の数の違いはほとんどないとされています。
発症年齢は30歳代後半3)にピークがあるといわれています。また、日本の高齢化社会の進展に伴い、ベーチェット病患者さんも高齢化が進んでいます。

4)より作図

1)Leonardo NM et al.:Int J Rheumatol. 2015:945262, 2015

2)e-Stat:平成29年度衛生行政報告例

3)岳野光洋 他:リウマチ科. 60:332-329, 2018

4)e-Stat:平成28年度衛生行政報告例

ベーチェット病の原因

ベーチェット病の原因はよくわかっていません。しかし、最近の研究により、ベーチェット病になりやすい遺伝的な要因と、さまざまな環境的な要因が複雑に関与することによって、免疫バランスの異常がおこり、発症につながると考えられています。

1)日本リウマチ財団 教育研修委員会・日本リウマチ学会生涯教育委員会 編:リウマチ病学テキスト第2版. 診断と治療社, p400-408, 2016

2)岳野光洋:リウマチ科. 58:412-419, 2017

3)岳野光洋:リウマチ科. 54:191-197, 2015

4)Mizuki N et al.:Nat Genet. 42:703-706, 2010

5)Kirino Y et al.:Nat Genet. 45:202-207, 2013

6)Kirino Y et al.:Proc Natl Acad Sci U S A . 110:8134-8139, 2013

7)Takeuchi M et al.:Nat Genet. 49:438-443, 2017

8)Takeuchi M et al.:J Autoimmun. 64:137-148, 2015

9)Ishigatsubo Y(ed.):Behçet's Disease. Springer, p1-20, 2015

遺伝的な要因

私たちの身体の細胞の表面にはヒト白血球抗原(HLA)という物質が存在します。HLAの型とは、白血球の血液型のようなもので、生まれながら遺伝子によって決まっています。HLAの型には膨大な種類があり、免疫細胞が自己(自分)と非自己(自分でないもの)を識別する手がかりとなっています。ベーチェット病患者さんは、HLA-B51という特定のHLAの型をもっている人が多く(35~80%)1)、このHLA-B51がベーチェット病の発症に関係があると考えられています。
ただし、HLA-B51があれば必ずベーチェット病を発症するわけではありません。HLA-B51をもっていないベーチェット病患者さんもいれば、HLA-B51をもっていてもベーチェット病ではない方も多いことから、発症には他の要因も関与していると考えられます。また、ベーチェット病の発症に関与する遺伝子は他にも複数報告されています2)
また、ベーチェット病は、親から子供に受け継がれた特定の遺伝子の変異により必ず発症するような遺伝病でもありません。ベーチェット病患者さんのご家族がベーチェット病を発症したという報告は多くはありません。

1)目黒明 他:あたらしい眼科. 23:1521-1527, 2006

2)Zeidan MJ et al.:Auto immun Highlights. 7:4, 2016

環境的な要因

トルコはベーチェット病患者さんが最も多い地域ですが、ドイツに移住したトルコ人では、トルコに住んでいるトルコ人よりも、ベーチェット病の発症率が低いことが報告されています1)。同様に、米国カルフォルニアやハワイに移住した日本人でもベーチェット病の発症はほとんどみられないことも知られています2)。このように、ベーチェット病が多い地域から少ない地域に移住することで発症率が低くなることから、ベーチェット病の発症には環境的な要因も関与していると考えられています。発症に関与する可能性のある環境的な要因としては細菌やウイルス感染などがあげられていますが、まだ明らかになっていません。

1)Papoutsis NG et al.:Clin Exp Rheumatol. 24:S125, 2006

2)Hirohata T et al.:Hawaii Med J. 34:244–246, 1975

免疫バランスの異常

私たちの身体には、細菌やウイルスなどの病原体から自然に身を守る「自然免疫」と、免疫の記憶によって身を守る「獲得免疫」の働きが備わっています。自然免疫の異常が自己炎症、獲得免疫の異常が自己免疫とよばれています。これらの免疫を担当するのが白血球をはじめとする免疫細胞です。
ベーチェット病患者さんの身体の中で、自然免疫と獲得免疫の二つの免疫の働きに異常が生じることで、過剰な免疫反応や炎症が引きおこされ、さまざまな症状が現れます。自己炎症(自然免疫)では、特にマクロファージなどが、自己免疫(獲得免疫)では、特にリンパ球が異常に活性化することで炎症を引きおこす物質を過剰に放出し、それによって好中球などの他の免疫細胞も活性化して炎症を悪化させていると考えられています。