ベーチェット病では、患者さんごとにさまざまな症状がさまざまな組み合わせで現れます。ベーチェット病でみられる症状のうち、口腔潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状は厚生労働省の診断基準により主症状とよばれます。そのほかに副症状として、関節炎、精巣上体炎(副睾丸炎)、血管病変、消化器病変、中枢神経病変があります。ベーチェット病は、それぞれの症状が現れたりおさまったりすることを長い期間にわたりくり返すのが特徴です。
4つの主症状がすべて現れる患者さん(完全型ベーチェット病)もいれば、1~2つの主症状と副症状によって診断される患者さん(不全型ベーチェット病)もいて、症状の出現パターンは患者さんによりさまざまです。
4つの主症状がそろう完全型ベーチェット病の患者さんは約3割(2002年全国疫学調査)1)という調査結果が出ています。
症状の現れ方には男女差や人種差があります。
男性では女性よりも眼症状、血管病変、中枢神経病変などが、女性では男性よりも外陰部潰瘍と関節炎が多く現れることが報告されています2)。
症状は、女性よりも男性の方で重くなりやすいといわれています。
近年、日本では眼症状が減少し、消化器病変が増加しています。
ベーチェット病の主症状と副症状
1)稲葉 裕:ベーチェット病全国疫学調査―臨床疫学像. 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)研究報告書:ベーチェット病に関する調査研究 平成16年度総括・分担研究報告書. P91-94, 2005
2)Kirino Y et al.:Arthritis Res Ther. 18:217, 2016
ベーチェット病の主症状の中でも、口腔潰瘍、皮膚症状、外陰部潰瘍は、ベーチェット病の診断時に多くの患者さんでみられる症状であり、多くの場合その後の病気の経過の中でもくり返し継続して現れる症状であることが報告されています。
また、患者さんの中には、ベーチェット病と診断される10年以上前から症状が現れている方もいます。
口腔潰瘍は、ベーチェット病で最初に現れる症状であることが多いほか、病気の経過の中でもほとんどの患者さんでみられる症状です。
血管病変、消化器病変、中枢神経病変は、診断から長い期間が経過してからも現れることのある症状です。
眼症状、血管病変、消化器病変、中枢神経病変以外の症状は、10年ほど経つと症状が落ち着いてくることが多いと言われています。
日本人患者さんにおけるベーチェット病の各症状の発現割合
ベーチェット病にはさまざまな症状があり、現れている症状やその程度などにより治療目標が異なります。外国のベーチェット病診療ガイドラインでは、以下のように治療目標があげられています。
眼症状や特殊型の消化器病変、血管病変、中枢神経病変は、炎症によるダメージが積み重なり、眼障害やさまざまな内臓の障害(および後遺症)を残すことがあります。
とくに特殊型ベーチェット病では、内臓の障害(および後遺症)が生命をおびやかすこともあります。
このような眼障害や内臓の障害(および後遺症)を防ぐために、炎症をすみやかに抑えることが治療目標になります。
口腔潰瘍や皮膚症状、外陰部潰瘍はくり返し現れても多くの場合、内臓の障害(および後遺症)を残しません。
しかし、これらの症状は痛みや不快感などにより、患者さんの生活の質(QOL)が大きく損なわれます。
患者さんの多くはベーチェット病によって身体にさまざまな痛みがあり、痛みが健康関連QOLの低下を引きおこすことが示されています3)。中でも、痛み、身体機能低下、倦怠感などをもたらす関節炎はQOLの低下に強く影響していることも示されています3,4)。さらに、口腔潰瘍があることで、食べたり飲んだりすることに支障をきたしQOLが低下することも報告されています5)。
このように多くの場合、内臓の障害(および後遺症)は残さないものの、QOL低下をもたらす皮膚粘膜症状、関節炎の悪化を抑えることも、ベーチェット病の治療目標になります。
ベーチェット病における生活の質(QOL)の低下
1)Hatemi G et al.:Ann Rheum Dis. 77:808-818, 2018
2)Hatemi G et al.:Ann Rheum Dis. 67:1656-1662, 2008
3)Canpolat Ö et al.: Asian Nurs Res(Korean Soc Nurs Sci). 5:229-235, 2011
4)Bernabe E et al.: Rheumatology(Oxford). 49:2165-2171, 2010
5)Naito M et al.:Genet Res Int. 2014:1-8, 2014
ベーチェット病にはさまざまな症状があり、その現れかたは患者さんによって異なります。
また、同じ患者さんでも症状の種類や症状の重さは時期によって変化します。
そのため、ベーチェット病の治療では、個々の患者さんに現れている症状の種類や症状の重さ、症状の進行の程度、患者さんの希望などに応じて治療方針を立てる必要があります1)。
1)Hatemi G et al.:Ann Rheum Dis. 77:808-818, 2018
StageⅠの場合でも条件を満たすと医療費助成を受けられる場合があります。
HLA-B51やHLA-A26が陽性でも、それだけでベーチェット病と診断することはできません。なお、遺伝子検査には保険は適用されません。
最近では針反応で陽性を示す患者さんが少なくなってきており、あまり行われなくなってきています。
炎症が治まっても元の健康な状態に戻すことができない臓器の障害を指す。
ベーチェット病では主に眼障害や消化器病変、血管病変、中枢神経病変などによる内臓の障害(および後遺症)が生じることがある
病気や健康状態が生活の質(Quality of Life)に及ぼす影響を測るための指標。身体的な側面(身体機能、痛み、日常活動など)、役割・社会的な側面、精神的な側面、活力・倦怠感などについての質問票を用いて健康に関係するQOLの状態を調べて数値化する。
SF-36、EQ-5Dなどが知られている。
皮膚や粘膜の組織の一部が壊死してなくなっている状態
虹彩、毛様体、脈絡膜は眼球を包むぶどうの実のような色の組織であり、まとめて”ぶどう膜”とよばれる。ぶどう膜とそれに隣接する部位におこる炎症を “ぶどう膜炎”という
小腸のうち、胃や十二指腸に近い側の半分弱を空腸、大腸に近い側の半分強を回腸という。また、大腸の始まりの部分を盲腸といい、そのつなぎ目の部分を回盲部という。
本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬ですが、ベーチェット病の治療にも使用されています。