ベーチェット病の主症状の中で、最も注意しなくてはならない症状です。診断時に約半数の患者さんで眼症状がみられるという報告がありますが、診断から長い期間が経ってから、病気の経過の中で眼症状が現れることもあります。
ほとんどの場合、両方の眼に症状が現れます。一つひとつの眼症状自体は一時的で、数日から2週間のうちに速やかになくなりますが、くり返し症状が現れるのがベーチェット病による眼症状の特徴で、眼炎症発作ともよばれます。
ベーチェット病による眼症状では、眼球の前部の「虹彩毛様体」や後部の「網脈絡膜」などに炎症がおこり、症状が現れます。前部の虹彩と毛様体、および後部の脈絡膜の3つを合わせて、「ぶどう膜」とよばれていることから、これらの炎症は「ぶどう膜炎」とよばれることもあります。
特に眼球の後部には人が物を見るために重要な網膜という場所があり、網脈絡膜炎がおこる場合は発作をくり返すうちに網膜のダメージが蓄積され、徐々に視力が低下していきます。適切な治療を行わないと失明する可能性もあることから、眼症状は主症状の中で最も注意すべき症状といえます。
ぶどう膜炎はベーチェット病だけでなく他のさまざまな病気によっても現れるため、眼科専門医による正確な診断が重要です。
眼症状は男性に多く、また視力低下をおこす網脈絡膜炎も男性に現れやすいことが知られています。
しかし、近年は新しい治療が登場したことでベーチェット病の眼症状は大きく改善されるようになり、視力の低下をおこす患者さんは大幅に減少しています1)。
ベーチェット病によるぶどう膜炎2)
1)川島秀俊:ベーチェット病の長期観察例の視力予後の解析.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)研究報告書:ベーチェット病に関する調査研究 平成19年度 総括・分担研究報告書,63,2008
2)石ヶ坪良明:眼・口・皮膚・外陰部の炎症をくり返す ベーチェット病. 保健同人社, p29, 2011
ベーチェット病の眼炎症発作に対しては、ステロイド点眼薬と散瞳点眼薬が使用されます。前部の炎症が強い場合には、ステロイドは結膜の下に注射することもあります。
眼球の後部に眼炎症発作がおきた場合(網脈絡膜炎)は、ステロイド後部テノン嚢下注射、ステロイド内服薬を使用します。また、前部の炎症も伴っていることが多いためステロイド点眼薬、散瞳点眼薬もほとんどの患者さんで使用します。
眼症状の現れる患者さんでは、眼炎症発作がくり返しおこるのを抑える治療も重要です。発作抑制のためには、まず痛風・家族性地中海熱治療薬が使用され、効果が不十分な場合には免疫抑制薬も検討されます。
TNF-α阻害薬は通常、免疫抑制薬でも発作が十分に抑えられない網脈絡膜炎に使用されますが、視力低下の可能性が高い患者さんでは、早くからTNF-α阻害薬の使用を開始することもあります。
発作が十分に抑えられず、TNF-α阻害薬など他の治療が使用できない患者さんでは、ステロイド内服薬を使用することもあります。
眼症状に使用される主な治療薬
治療薬 | 説明 |
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ステロイド点眼薬 |
眼球の前部の炎症を抑えるお薬です。 1日数回、症状のある眼に点眼します。 |
散瞳点眼薬 |
虹彩をゆるめて瞳孔を開いた状態にするお薬です。 1日数回、症状のある眼に点眼します。点眼後はしばらく瞳孔が広がりまぶしく感じ、近くが見えにくくなります。 炎症によって虹彩が周りの組織とくっついて(癒着)しまうのを防ぐ効果が期待できます。 |
ステロイド結膜下注射 |
眼球の前部の炎症を抑える治療です。 虹彩毛様体炎が重症の場合にステロイド薬を結膜のすぐ下に注射します。散瞳薬を一緒に注射することもあります。 |
ステロイド後部テノン嚢下注射 |
眼球の後部の炎症を抑える治療です。 麻酔後、結膜を通して眼球の周囲(テノン嚢の内側)にステロイド薬を注射します。 |
ステロイド内服薬 |
炎症を抑えるお薬です。 炎症を抑える効果は強力ですが、長期使用による副作用を防ぐため、症状が改善したら量を少しずつ減らしていきます。 |
痛風・家族性地中海熱治療薬 |
本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬です。 白血球の働きを抑え、炎症を抑えるため、ベーチェット病の治療にも使われます。 |
免疫抑制薬 | 免疫に関係するさまざまな細胞の働きを抑えて、免疫反応と炎症を抑えるお薬です。 |
TNF-α阻害薬 | 免疫機能にかかわり、炎症を引きおこす特定の物質(TNF-α)の働きを抑えるお薬です。 |
StageⅠの場合でも条件を満たすと医療費助成を受けられる場合があります。
HLA-B51やHLA-A26が陽性でも、それだけでベーチェット病と診断することはできません。なお、遺伝子検査には保険は適用されません。
最近では針反応で陽性を示す患者さんが少なくなってきており、あまり行われなくなってきています。
炎症が治まっても元の健康な状態に戻すことができない臓器の障害を指す。
ベーチェット病では主に眼障害や消化器病変、血管病変、中枢神経病変などによる内臓の障害(および後遺症)が生じることがある
病気や健康状態が生活の質(Quality of Life)に及ぼす影響を測るための指標。身体的な側面(身体機能、痛み、日常活動など)、役割・社会的な側面、精神的な側面、活力・倦怠感などについての質問票を用いて健康に関係するQOLの状態を調べて数値化する。
SF-36、EQ-5Dなどが知られている。
皮膚や粘膜の組織の一部が壊死してなくなっている状態
虹彩、毛様体、脈絡膜は眼球を包むぶどうの実のような色の組織であり、まとめて”ぶどう膜”とよばれる。ぶどう膜とそれに隣接する部位におこる炎症を “ぶどう膜炎”という
小腸のうち、胃や十二指腸に近い側の半分弱を空腸、大腸に近い側の半分強を回腸という。また、大腸の始まりの部分を盲腸といい、そのつなぎ目の部分を回盲部という。
本来は痛風発作の治療や予防に使用されるお薬ですが、ベーチェット病の治療にも使用されています。