Tさん:20歳代
(診断から約3年)
初めて口内炎ができたのは小学校4年生の頃だったと思います。えぐれるような痛みのひどい口内炎ができては消えることをくり返し、「口内炎がずっとある」という状態が続いていました。通院していた耳鼻科の先生からは、「口内炎ができやすい子」と言われていました。この時、もちろん私は「ベーチェット病」という言葉も知りませんでしたし、先生もベーチェット病の症状とは考えていなかったようです。
高校2年生の夏休みに10個以上の口内炎が一度に現れ、近くの病院に入院することになりました。そこで初めてベーチェット病が疑われ、さまざまな検査を行ったのですが、口内炎以外の症状はなかったため診断には至りませんでした。
高校卒業後は上京して保育の専門学校に進学したのですが、その頃から、口内炎に加えて月に1~2回の頻度で高熱もくり返すようになりました。再びたくさんの検査を受けたのですがベーチェット病とは診断されず、「体質」と説明されました。症状がひどいときには専門学校を休まざるをえない状態でしたが、学校の単位が足りなくなってしまうため、痛み止めを飲みながら我慢して通うこともありました。アルバイトもしていたのですが、高熱のため休みがちで迷惑をかけてしまい、休み過ぎだと言われたときには傷つきました。病名がないので、ずる休みだとか嘘だとか思われているような気がしてつらかったです。友達からは体が弱い子と思われて心配されましたが、私は友達と話すことが大好きなので、学校では楽しい時間を過ごしていました。
専門学校に通っていたときは一人暮らしをしていたため、口内炎や高熱がでている間は掃除、洗濯、食事、通院をするのもとても大変で、精神的にもいっぱいいっぱいでした。専門学校2年目の20歳の頃には、ストレスや一人暮らしで感じる不安などもあって体重が減ってしまい、もう限界でした。医師からの助言もあり、体力的にも精神的にもギリギリだった私は地元に戻ることにしました。
しかし、ここで転機が訪れたのです。地元の大きな病院に通院をはじめたところ、耳鼻科の先生がベーチェット病の可能性が高いと考えて治療を進めてくださいました。そして、その約2年後には、関節炎と外陰部潰瘍、さらには皮膚症状も現れたことから、ついにベーチェット病と診断がついたのです。
長い間、自分はベーチェット病だろうと思っていたので、診断がついてとても安心しましたし、病名がついたことで医療費助成を受けられるという点でも気持ちが楽になりました。また、早く診断されたいという気持ちが強かったため、「ようやくここまでたどり着けた」という達成感のようなものがあったことも覚えています。
口内炎は、普通の口内炎とは違って大きく、潰瘍を引き起こしていること、また口内炎以外のベーチェット病の症状を見逃さなかったことが、ベーチェット病の診断につながったのだと思います。
地元に戻った当時は、なかなか自分の現状を受け入れることができませんでした。保育の道をあきらめて地元に帰るという選択肢は本当に受け入れ難かったですし、周りのみんなは飲みに行くなど都会での学生生活を満喫していたので、「人生で一番楽しいはずのときに自分だけがどうして・・・」と苛立ちと不安が募っていました。
しかし、実家で両親と一緒に過ごすうちに、気持ちが張りつめていた自分の中に大きな変化がありました。「甘えるところは甘えていいんだな」と自分を許せるようになったのです。両親は、悲しいときも嬉しいときもありのままの自分を隠さずにだすことができ、それを受け止めてくれるとても心強く、安心できる存在でした。
そうした環境でたくさん悩んでいるうちに、「悩んでいてもベーチェット病の自分は変わらない。ベーチェット病になった自分も自分であり、それをうまく受け入れて生きていけるのが自分なんだ」と開き直ることができるようになっていきました。ベーチェット病の自分を受け入れられるまでに2年ほどかかりましたが、受け入れられると気持ちがとても楽になりました。
それからは、できる範囲でこれまでとは違う楽しみ方を見つける努力をしました。こどもの頃から病気のせいであきらめてきた事が多く、いろんな目標や夢があったけれど、それを目指せないことが悔しくて悩んだり、周りと比べて劣等感を抱いてしまったりとさまざまな葛藤がありました。
しかし、「できないこと」ばかりを意識するのではなく、SNSを通じて自分と同じベーチェット病の友達とつながったり、オンライン飲み会を開催したりするなど、「今だからできること」「自分だからできること」に目を向けるように心掛けたことで新たな楽しみを見つけることができました。また、自分の中にあった余分な力が抜けて、ベーチェット病の自分を受け入れてくれる周りの人の存在のありがたさなど、これまで見えていなかったものに気が付くこともできました。そのため、今は「自分ができることをやっていこう。その中で幸せを見つけられたらいいよね」という前向きな気持ちでいます。
前までは「絶対東京に行って都会生活を満喫する!」といった気持ちを強く持っていましたが、そのような気持ちも一切なくなり、将来的にはこれまで支えてきてくれた両親のサポートをしていけるようにがんばりたいと思っています。
こう思えるようになったのは、同じベーチェット病や他の病気を経験している友達と積極的にかかわり、小さな幸せを共有しあったり、励まし支えあったりすることで、少しずつ気持ちが楽になれたからだと思います。さまざまな病気でたくさんの苦労を経験している友達の言葉には重みがあり、とても勇気づけられるのです。
決して、ベーチェット病になりたくてなった人はいないと思います。つらい事や悩む事も多くあると思いますが、私は、ベーチェット病になったからこその出会いがあり、そこから新しい世界も見えてきました。ベーチェット病になったからこその幸せの見つけ方があるのかなと思っています。
ベーチェット病の自分と
向き合うためのヒント
⽇々前向きに⽣きているTさんの今は、
後編でご紹介します
Tさんの体験談(後編)
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※ 掲載内容は患者さん個人の体験談であり、すべてのベーチェット病患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。ご自身の症状で気になることや治療に関することは、主治医またはお近くの医療機関にご相談ください。