Mさん:50歳代
(診断から約8年)
ベーチェット病と診断されたのは40歳半ばの頃だったのですが、治療の開始後も、しばらくは口内炎の再発を頻繁にくり返していました。再発のたびにステロイド内服薬の用量が増えていったので、自分の症状の深刻さに落ち込んでいました。また、診断後に現れた眼の症状に対する不安感も強かったです。眼の炎症がひどいときには眼に注射を行うことがあるのですが、眼の注射は痛みを伴いますし、注射の際に針が見えてしまうことが私にとってはとにかく恐ろしく、生きた心地がしないものでした。そのため、眼の症状が悪化すると注射を余儀なくされるといった恐怖心もあり、ベーチェット病の診断後の1年くらいは気分が落ち込んだ状態が続いていました。
しかし、そのように過ごしているうちに、あることに気が付きました。「病は気から」という言葉のとおり、気持ちが落ち込んでいると、症状の改善が遅いということを実感したのです。それからは、あまり考えすぎずに生活することを意識して過ごすようにしました。
ただ、「ベーチェット病とつき合っていくために、気持ちの持ち方が大切」と頭ではわかっていても、なかなか心がついてきませんでした。現在は新たな口内炎治療薬のおかげで口内炎の症状はおさまっていますが、再発があった時期は口内炎の痛みや微熱、倦怠感などで電話応対が困難であったり、一日中仕事をしているのがつらいと感じることも少なくなかったからです。
そうした状況だったことから、仕事から逃げ出したくなるときもあったのですが、生計のために仕事は辞めずに続けたいですし、辞めてしまうと難病が原因で再就職は難しいのではないか、と頭を悩ませていました。しかし、幸いにも職場の方は病気に対して理解を示してくれていましたし、何も言わずに見守ってくれている母のことを思うと、「落ち込んではいられないな、がんばろう!」と少しずつ前を向けるようになっていきました。
それからは、やるしかないという気持ちで、口内炎の痛みが強いときは、「絶対〇〇を食べる!」と好きなものを食べることを楽しみにして、早く治そうと自分を奮起させました。また、症状がおさまっているときは友達と会って悩みを聞いてもらったり、趣味で通っているスポーツジムの仲間と楽しい時間を過ごしたりして、どうにか気持ちを高めようと心掛けました。
その一番の原動力となったのは、「普通に暮らしたい」という強い気持ちです。その気持ちこそが日々の大きなモチベーションとなりましたし、現在もそれは変わらないですね。
ベーチェット病と診断がついた際、仕事と治療を両立したかったため、病気のことを職場の方に伝えました。それというのも、仕事は週5日勤務しているのですが、再発すると時短勤務をさせてもらったり、通院のために休暇を取得する頻度が増えてしまうため、治療に支障をきたし得ると思ったからです。
職場の方に迷惑をかけてしまうことが心配だったのですが、病気のことを理解し、あたたかく受け止めてくださいました。「つらいときは代わるから休んでいいよ」と声もかけてくれており、大変心強い気持ちでいっぱいです。これまで、ベーチェット病の症状でつらいことがあっても、職場の方の理解と配慮があったからこそ、無理することなく楽しく働いてこられたのだと思います。
また、病気のことは友達にも伝えたのですが、最初は驚いていたものの、口内炎に悩まされてきた状況を知っていたため、「しっかりと治療ができるようになるから、これまでのつらさが少し緩和されるんじゃない?」と親身になって話を聞いてくれました。だからといって病人扱いしているわけではなく、普段は今までと変わらない様子で接してくれますし、体調がすぐれないときには「無理しないでね」といたわってもくれます。私にとって、ベーチェット病であることを特別視せずに「普通」に接してくれる、ということは何よりもうれしいことなのです。
診断された当時は、気持ちが上がったり下がったりをくり返していましたが、今のようにモチベーションを高く保ち前向きに日々を過ごせているのは、このような周りの方々の理解と配慮のおかげだと心から思っています。
これまで、口内炎の痛みやそれに伴う微熱、倦怠感などが原因で、友達との食事やスポーツジム通いといった楽しみな予定を泣く泣くキャンセルせざるを得ない状況が多くありました。しかし現在は、新たな口内炎治療を始めたかいもあって、口内炎に悩まされることがなくなり、好きなことを好きなタイミングで楽しめるようになりました。
そうした今も、ベーチェット病とともに暮らしていく上で実践していることが3つあります。「ストレスをため込まない」「食べたいものを食べる」「睡眠を十分にとる」ということです。ストレスや過労は、ベーチェット病の症状の悪化や再発を引き起こしやすいということを経験してきたからです。そのため、私にとってもストレス解消法は体を動かすことなので、スポーツジムに通ったり、自宅でできるオンラインレッスンを利用したりして体を動かすようにしています。また、甘いものが大好きなので、仕事帰りにケーキ屋さんに寄り道をして好きなスイーツを食べることもストレス解消につながっています。どれも普通のことのようですが、口内炎をはじめとするベーチェット病の症状がないからこそ楽しめることなのです。
ベーチェット病は難病であり、完全に治ることは難しいといわれていますが、現在は新たな治療薬も登場しており、ベーチェット病の口内炎は「コントロール可能な症状」であることを私は経験しました。初めは躊躇もしましたが、前向きに新たな口内炎治療薬にチャレンジできたことで、健康な人と変わらない普通の暮らしを取り戻すことができたのです。
今こうしている間にも、ベーチェット病の症状で苦しんでおられる方がいらっしゃると思いますが、深く落ち込みすぎず、楽しいことを探して少しだけ前を向いてみてください。症状も治療も、気持ちの持ち方次第でその後が大きく変わってくることもある、ということを私の経験を通じてお伝えできればいいなと思います。
自分らしくベーチェット病と暮らすヒント
Mさんがチャレンジした新たな口内炎治療については、前編でご紹介します
Mさんの体験談(前編)
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※ 掲載内容は患者さん個人の体験談であり、すべてのベーチェット病患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。ご自身の症状で気になることや治療に関することは、主治医またはお近くの医療機関にご相談ください。