Nさん:40歳代
(診断から約8年)
私は40歳代になってからベーチェット病と診断されたのですが、ある程度の年齢になると持病があっても決してめずらしいことではありませんよね。年齢を重ねるにつれて、誰しも体の不調が増えてきたり、病気にかかりやすくなったりするものです。だから、ベーチェット病だからといって特別なことではないと思っています。たまたま私はベーチェット病というカードを引いただけであり、高血圧や糖尿病といった病気と大きな違いはないのです。
それに、ベーチェット病をきっかけにかかりつけ医ができ、継続的に自分の身体を診てくれている存在が身近にいるということは、大変心強いことですし、自分の身体を顧みてメンテナンスできていることの証だと思っています。
私は職場の方にも、ベーチェット病であることを胸を張って伝えているんです。病気のことは早いうちに知らせておいた方が根拠のない噂が流れたり誤解が生じたりすることを避けられますし、そもそも隠す病気ではないと思っているからです。堂々としているため、周りの方は病気だからといって特別扱いすることなく遠慮せずに普通に接してくれていますし、私自身も通院のために休暇を取得する際などに臆することはありません。
もっと若い頃にベーチェット病を発症していたら、病気がなかったらと葛藤を抱えたり、周りが理解してくれないと思い悩んだりしていたかもしれません。しかし病気は天災のようなものなので、病気になったのであれば、自分の状態を受け入れて慣れるしかないと思うのです。決してあきらめの気持ちではありませんよ。ただ、ないものねだりはネガティブ思考になりがちですからね。
病気やそのつらさについては、他人が当人のように理解するのは難しいことですし、「わかってくれない」と感じた時の疲労感の方が大きいのではないでしょうか。そのため、私は周りの方に病気のことを理解してほしいと思うことはあまりありません。それより大事なことは、心の底からベーチェット病である自分を受け入れ、現状に感謝の気持ちをもつことです。満たされない気持ちを抱きながら悶々と過ごすよりも、今ある小さな幸せに気が付くことが大切ではないでしょうか。
ただ、ベーチェット病は疲れやすかったり、微熱やだるさなどの症状が予期せずタイミングであらわれたりする病気だということは周りの方にはっきりと伝えています。ベーチェット病患者さんも普通に社会生活を営みたい気持ちがあり、仕事中にだるそうにしていても、やる気がないとかサボりたがっているわけではないということを、きちんと知っておいていただきたいですからね。
今は、新たな口内炎治療薬と出会ったおかげでベーチェット病のことで悩まなくなりましたが、それまでは口内炎が常にある状態でしたので、いつもチクチクとした痛みを感じていて、イライラしながら過ごしていました。「生活できないことはないけれど、とにかく気になるし痛い。なんだかイライラする」といった状態で、靴の中に小石がずっと入っている感覚に似ているかもしれません。何をしていても痛みのことが頭の片隅から離れないため、日常生活の最低限のことを済ませたら「もう寝て忘れよう」と思い、食事・入浴・睡眠を繰り返す日々でした。イライラしているとたくさんのエネルギーを消耗するため、精神的にも体力的にも疲弊していたのだと思います。
ところが、新たな治療薬によって口内炎の症状がおさまるようになったことで、痛みやイライラなどから解放され、心が楽になっていることにふと気が付きました。ちょっとした隙間時間に「本を読んでみよう」、「大好きなお風呂にゆっくり入ろう」などと口内炎以外のことに意識を向けられる心の余裕が生まれたのです。
また、口内炎がおさまるようになってからの方が深く眠れるようになったようにも感じています。寝ている間は無意識に舌をかんでしまうこともあり、朝起きると「え?また口内炎ができた・・・」と残念な気持ちになることも少なくありませんでした。しかし、新たな口内炎治療薬を始めたことで、「口内炎ができても大丈夫。薬を飲んでいるから症状はおさまるだろう」という安心感を得たのです。
今思うと、これまでは寝ている間にも、新たな口内炎ができたり悪化したりする不安感や緊張感があったのだと思います。睡眠は、心と身体のリフレッシュのためにとても大切ですよね。安心して眠れるようになった今は、いかに深く眠れるかを追求して、入眠前の照明環境や室温など睡眠の質を高めるための研究を日々続けています。これからも自分の身体と向き合いながら、自分なりに良いと思うことをどんどん実践していきたいと思っています。
口内炎の改善により心の余裕が生まれると、体力的な余裕もできてきました。今では、ぬるめのお風呂にゆっくり入って歌を歌ったり、日替わりでさまざまな入浴剤を楽しんだりして、日常生活の中の小さな幸せを見つけて楽しい時間を過ごしています。読書や運動といったこれまでできなかったことも、少しずつ日々の暮らしの中に取り入れていきたいですね。最近は、アウトドア用の椅子をもって散歩に出かけ、公園や水辺などお気に入りの場所で椅子に腰をかけてくつろいだり、お茶を飲んだりして楽しむ「チェアリング」も始めてみようと思っています。もう、椅子も買っちゃいました。
ベーチェット病患者さんの中には、口内炎の痛みや、微熱、だるさ、不安感などと常に隣り合わせで過ごし、人生を謳歌する余裕がなかったり、周囲の方と比べて劣等感や疎外感を感じてきた方も多いのではないかと思います。私も例外ではありません。しかし、口内炎を治したいという強い気持ちと行動が新たな口内炎治療薬との出会いにつながり、その出会いが私の人生を上向きへと大きく変えてくれました。
まず、食べたいものを美味しく食べられるようになった食事面での変化が大きいことは、声を大にして伝えたいですね。そして、「新たな口内炎治療薬があるから大丈夫」と思える安心感は、ベーチェット病とともに生きていく上で大きな心の支えとなっていますし、前向きな気持ちをもたらしてくれています。そのおかげで、好きなことや楽しいことに挑戦して、心豊かに過ごせる毎日を送ることができています。これからの毎日もとても楽しみで、ワクワクしています。
ベーチェット病とともに心豊かな毎日を過ごすためのヒント
新たな口内炎治療薬と出会うまでのNさんは、前編でご紹介します
Nさんの体験談(前編)
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※ 掲載内容は患者さん個人の体験談であり、すべてのベーチェット病患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。ご自身の症状で気になることや治療に関することは、主治医またはお近くの医療機関にご相談ください。